爪水虫・爪白癬の治療
1.水虫の原因はムシではなくカビ!
真菌(いわゆるカビの仲間)によって皮膚に起こる疾患を皮膚真菌症といい、白癬は白癬菌が原因で生じる皮膚真菌症のひとつです。白癬菌はケラチンを栄養とするため、通常はケラチンの豊富な表皮の角質層や爪、毛包内角質や毛に感染し病変を生じます。白癬は罹患部位によって病名が異なり、足白癬(いわゆる水虫)、爪白癬(いわゆる爪水虫)、体部白癬(たむし)、股部白癬(いんきんたむし)、手白癬(手の水虫)などと呼ばれます。
足白癬の患者さんは、わが国においては潜在的には約2500万人(5人に1人程度)、爪白癬の患者さんは約1200万人(10人に1人程度)存在すると推定されています。
2.水虫は見ただけでわかるの?
白癬の診断は顕微鏡で白癬菌を見つけて初めて可能となります。問診や臨床所見からその可能性が高いか低いかは推定できますが、けっして確定診断できません。白癬を疑ったらまずは当院で受診いただき、鏡検検査で白癬菌を検出することが大切です。
鏡検検査は当日に結果が出る検査であり、検査の痛み等も ほとんどの場合ありません。むしろ、正しい診断がなされぬまま、無意味に長期間、抗真菌剤を使用することの方が、皆様にとってのデメリットといえます。
3.爪白癬との鑑別疾患
以下の疾患は、臨床所見から推定がつくこともあるものの、鏡検検査にて白癬菌が検出されなかった際に鑑別すべき主な疾患です。
- 爪カンジダ症
- 爪乾癬
- 掌蹠膿疱症の爪
- 20 nail dystrophy(20爪異栄養症)
- 厚硬爪甲
- 爪甲剥離症
- 爪甲鉤弯症 など
4.爪白癬
わが国では国民の10人に1人は爪白癬に罹患していると推定されており、患者の70%に足白癬などの他の白癬を合併しています。足白癬を未治療で放置していると、白癬菌は爪周囲から爪甲の下に侵入し、爪甲が白色~黄色に濁ってきます。やがて爪甲下角質が増殖して爪が肥厚し、更に増殖した角質がもろくなって脱落すると爪甲剥離状態(爪が浮いている状態)になります。初期は爪甲表面に変化はありませんが、進行すると爪甲変形が生じ、蛎殻様になることもあります。
5.爪白癬の治療の原則
外用の抗真菌剤は角層の奥深くには浸透しないため、爪白癬の治療は抗真菌剤の内服が原則です。内服療法は外用療法と違い、塗り忘れや塗り残しの心配がなく、日々の治療に要する時間や手間もかからないので簡便かつ確実な方法ですが、ごくまれに肝機能障害などの服作用を起こす可能性や、他の薬剤との相互作用に基づく併用禁忌、肝障害のある方には使用できないなど、注意すべき点もいくつかあります。現在、爪白癬に保険適応となっている抗真菌内服薬全てを併せると治癒率は70~80%といわれています。
残りの20~30%は
- 爪甲剥離状態になっていて、爪床からの薬剤到達経路が遮断されている
- 加齢や爪母の障害、末梢循環不全に伴い爪が伸びない
- 肝機能障害などが生じ、内服が継続できない
- 患者が定期的な通院に飽きてしまったり、
治療に対するモチベーションが低下して来院しなくなってしまった
などの理由があげられています。このうち、爪甲剥離状態になっているものは、各種の爪用の鋏やニッパ、ルーターを駆使して剥離している爪甲部分を切除することにより治癒率が向上する可能性もあり、丁寧な治療が必要と考えます。
従来、爪白癬に有効な外用の真菌剤はありませんでしたが、2014年以来エフィナコナゾールとルリコナゾールの爪白癬用外用液が発売され、中等症以下の症例には有効性を示しています。
外用剤も症例を選べば有効な薬剤といえます。
6.内服抗真菌剤の特徴とポイント
わが国で爪白癬に保険適応がある内服抗真菌剤は、イトラコナゾール(itraconazole)、テルビナフィン(terbinafine)の2種類です。
【イトラコナゾール(itraconazole)】
わが国では1993年に白癬、カンジダ症、癜風の保険適応が承認され、1999年には爪白癬、爪カンジダ症、カンジダ性爪囲炎に適応拡大された薬剤です。当初は50~100mgを1日1回、連日投与する方法で使用されていましたが、2004年に爪白癬に対するパルス療法が承認されました。パルス療法とは、1回200mgを1日2回(1日量400mg)、1週間連続投与し、その後3週間休薬することを1クールとして、これを3クール繰り返す方法です。パルスの回数は3クールを限度とし、治療開始から6ヶ月は経過観察しますが、その時点で効果が不十分な場合は更にパルス療法を追加したり他剤に変更することもあります。
イトラコナゾールの長所は、
- 角質親和性が高く、内服中止後も4週間は皮膚に存在し、爪には6~9ヶ月貯留するといわれている(パルス療法の根拠)
- 静菌的・殺菌的に作用する
- 薬剤の爪への拡散経路が爪母・爪床の両方から到達する
- 抗真菌スペクトルが広く、白癬菌のみならずカンジダや癜風菌にも有効
- 内服期間が短く、治癒率が高い などがあげられます。
一方で短所は、
- 他剤との併用禁忌あるいは慎重投与が多く、投与不可能な症例が少なくない
- コストが高い などがあげられます。
副作用は発現率7.9%で、消化器症状3.4%、肝胆道系障害2.0%(無症候性のAST、ALT上昇が多く、重症例は少ない)などが報告されています。
日本人は薬を毒と考える傾向があるようで、特に内服薬には抵抗感のある方もまだ多く、そのような方にとっては内服期間が短縮できるパルス療法は魅力的なようです。
【テルビナフィン(terbinafine)】
わが国では1997年に皮膚真菌症の治療薬として承認されました。投与方法は1日1回1錠(1錠125mg含有)を5~6ヶ月、連日内服します。
テルビナフィンの長所は、
- 角質親和性が高く、血中濃度が低下しても2~3週間は皮膚に存在し、爪には2ヶ月くらい有効濃度で貯留するといわれている(欧米では1日500mgのパルス療法も試みられている)
- 殺菌的に作用する
- 薬剤の爪への拡散経路が爪母・爪床の両方から到達する
- 内服期間がグリセオフルビンに比べ短く、治癒率が高い
- 1ヶ月あたりのコストがイトラコナゾールに比べ安い
- 他剤との併用禁忌あるいは慎重投与がほとんどない などがあげられます。
一方で短所は、
- 全般的には副作用は少ないが、致死的な報告例もあり、重篤な肝障害、皮膚粘膜眼症候群が報告されている
- 内服期間がイトラコナゾールに比べ長い
- 内服期間中は月に1回、肝機能検査を施行する必要がある などがあげられます。
副作用は発現率11.3%で、消化器症状4.9%、肝胆道系障害3.7%、皮膚障害1.2%(薬疹など)、血液障害2.5%(汎血球減少など)などが報告されています。重篤な肝障害も報告されていますがその頻度は0.01%低く、総じて副作用は少ない薬剤といえます。